大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和44年(あ)1455号 判決

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役五月に処する。

この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

被告人から、押収してある現金二万円(東京高等裁判所昭和四三年押第五三二号の二)を没収し、金一万円を追徴する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人小林健治、同三宅富士郎の各上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

検察官の上告趣意のうち判例違反を主張する点は、原判決は論旨引用の判例と相反する判断を示したものとは解せられないから、その前提を欠き、その余は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

しかし、検察官の所論にかんがみ職権をもって調査するに、記録によれば、原判決が是認した第一審判決の認定した罪となるべき事実(判示第七の一、二)の要旨は、被告人は昭和四二年一月一八日施行の茨城県議会議員選挙の選挙人であるが、同県稲敷郡選挙区から立候補した宮崎孝一の選挙運動者である石山要、同垣沼茂から、右宮崎のため投票および集票等の選挙運動をすることの報酬等として、昭和四一年九月一三日ころ現金一万円、同じく宮崎孝一の選挙運動者である石山要、同福智栄から、右と同様の趣旨で同四二年一月一日ころ現金二万円の各供与を受けたというものである。そして、第一審判決は、右供与を受けた合計三万円につき追徴を言い渡しているところ、原判決は、右二万円の供与を受けた分については、そのまま警察官に提出領置されたものと認めて、押収の現金二万円(東京高等裁判所昭和四三年押第五三二号の二)を没収すべきであるとの理由により第一審判決を破棄し、自判するにあたり、右現金二万円を没収する旨言い渡したが、右一万円の供与を受けた分については、被告人がこれを自己の生活費に費消していることが明らかであるのに、被告人に対してその価額を追徴していないのである。

ところで、公職選挙法二二四条は、選挙運動もしくは投票の報酬として一旦授受された利益またはその価額は常に国庫に帰属せしめ、その授受者をして犯罪に関する利益を保持させないことを目的として、いわゆる必要的没収もしくは追徴を定めたもので、右利益につき必ず没収することを要し、もし没収することができないときはその価額を追徴すべく、没収および追徴につき裁判官の自由裁量を許さない趣旨のものと解すべきである。したがって、原判決が上述のように被告人が供与を受けた金一万円につき追徴を言い渡さなかったのは、右同条に違反し、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。原判決中被告人に関する部分は刑訴法四一一条一号により破棄を免れない。

よって、同法四一三条但書により、被告事件につき更に次のように判決する。

原審の是認した第一審判決の確定した事実(判示第七の一、二)に法律を適用すると、被告人の判示各所為は公職選挙法二二一条一項四号、一号に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示第七の二の金二万円受供与の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、被告人を懲役五月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から四年間右刑の執行を猶予することとする。なお、被告人が判示第七の二の犯行により収受した現金二万円(東京高等裁判所昭和四三年押第五三二号の二)は、公職選挙法二二四条前段により、これを没収し、判示第七の一の犯行により収受した現金一万円は没収することができないので、同条後段、刑法四九条により、その価額を追徴することとし、原審における訴訟費用につき刑訴法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 関根小郷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例